現在国内の金属アレルギー推定人数は1300万人、およそ10人に1人が金属アレルギーという深刻な状況です。
特に「ニッケル」「コバルト」「クロム」は金属アレルギー3大原因金属として知られており、パッチテストによるニッケルの陽性率は18.9%にも上ります。
このような背景の中、2025年7月30日にコラントッテから発売された「TAO ARC」に採用された新素材「Co-SUS(SUS445J2MOD)」は、アクセサリー業界初の革新的な材料として注目を集めています。
この新素材Co-SUSがなぜ画期的なのか、従来のステンレス材料とどう違うのかを技術的な観点から多角的に考察します。
Co-SUS(SUS445J2MOD)とは何か
基本情報
- 正式名称:SUS445J2MOD
- 商標名:Co-SUS(コラントッテ ステンレス)
- 分類:フェライト系ステンレス鋼の改良版
- 業界初:アクセサリー製品としての採用
「MOD」の意味
「MOD」は「Modify(修正・改良)」を意味し、標準的なSUS445J2を何らかの形で改良・最適化した材料であることを示します。
つまり、コラントッテがアクセサリー用途に特化してカスタマイズした専用材料ということです。
従来ステンレスとの決定的な違い
従来ステンレスの特徴と限界
これまでアクセサリー用ステンレスには以下のような素材が使用されてきました。
SUS316/316L(サージカルステンレス)
- ✅ 優れた耐食性と実績
- ✅ 強固な不動態皮膜によるアレルギー軽減効果
- ❌ ニッケル8-12%含有により完全なアレルギー対応は困難
- ❌ 高いコスト(ニッケル価格変動の影響)
SUS430(エコノミー選択)
- ✅ ニッケルフリー(アレルギー対応)
- ✅ 安価
- ❌ 耐食性が316Lより大幅に劣る(Cr 16~18%、Mo なし)
- ❌ 汗や塩分環境での腐食リスク
つまり、「高性能だがアレルギーリスクあり」か「アレルギー対応だが性能劣化」という状況でした。
Co-SUSが実現した革新:理想の両立
Co-SUSは従来困難とされていた高性能とアレルギー対応の両立を実現したと考えられます。
Co-SUS(SUS445J2MOD)の特徴
- ✅ SUS316級の高い耐食性(Cr 21~24% + Mo 1.5~2.5%)
- ✅ ニッケルフリー(アレルギー対応)
- ✅ 優れた加工性(複雑な曲線加工が可能)
- ✅ 価格安定性(ニッケル価格変動の影響なし)
詳細な性能比較分析
メーカー関係者に確認したところ、Co-SUSは「SUS445J2をベースに改良を加えた素材で厳密には異なる」とのことです。
具体的な改良内容は企業秘密とされているため、本記事の分析は一般的なSUS445J2の特性をベースとした推定を含みます。
化学成分比較
元素 | SUS316L | SUS430 | SUS445J2 | 効果 |
---|---|---|---|---|
Cr | 16~18% | 16~18% | 21~24% | 耐食性大幅向上 |
Ni | 12~15% | 0.6%以下 | 0.025%以下 | アレルギーリスク排除 |
Mo | 2~3% | なし | 1.5~2.5% | 耐孔食性向上 |
C | 0.03%以下 | 0.12%以下 | 0.025%以下 | 加工性向上 |
耐食性能の数値比較
耐孔食指数(PREN値)での比較
- SUS316L:約24~26
- SUS430:約16~18
- Co-SUS:約29~32(計算値: 22.5 + 3.3×2.0 + 16×0.02 = 29.4)
この数値は塩化物環境(汗、海水等)での耐食性を示しており、Co-SUSが従来材料を大きく上回ることを示しています。
アスリートレベルの過酷使用環境での優位性
Co-SUSの高い耐食性能は、特にプロアスリートの使用環境で真価を発揮します。
コラントッテ製品を愛用するアスリートは、一般使用とは比較にならない厳しい環境で製品を酷使しています。
- 大量発汗:激しいトレーニングや競技中の高塩分濃度の汗
- 海水暴露:サーフィンやトライアスロンなどマリンスポーツでの長時間接触
- 連続装着:競技・練習・回復期間を通じた24時間装着
- 気候変動:屋外競技での紫外線、雨、急激な温度変化
SUS316Lは優秀で実績のある材料ですが、Co-SUSの優れた耐食性・耐アレルギー性はアスリートレベルの過酷使用に対して、さらなる安全性と安心感を提供します。
アレルギーリスクの科学的評価
ニッケルアレルギーに対する完全対応
金属アレルギー記事で解説したように、ニッケルの陽性率は18.9%と非常に高く、最も注意すべき金属です。
Co-SUSはニッケル含有量を0.025%以下に抑制することで、最も頻度の高いニッケルアレルギーのリスクを大幅に軽減します。
クロムアレルギーへの配慮
Co-SUSは高クロム含有(21~24%)のため、クロムアレルギーについても配慮が必要です。
ステンレス中のクロムは主に3価クロムとして存在し、有毒な6価クロムとは異なります。通常使用では6価クロムに変化することはありません。
重要なのは、Co-SUSの高クロム含有により形成される強固な不動態皮膜が、クロムを含む金属イオンの溶出を大幅に抑制することです。これにより、従来のステンレスと比べてアレルギーリスクの軽減が期待されます。
ただし、既にクロムアレルギーをお持ちの方は、使用前に医師への相談をお勧めします。
コラントッテが選んだ戦略的材料使い分け
TAO ARCでの実装
ペンダントトップ:Co-SUS(色付きはイオンプレーティング)
- 新素材の象徴的使用
- 直接肌接触部分での安全性確保
- デザイン自由度の向上
ジョイント:SUS316L(色付きはイオンプレーティング)
- 機械的信頼性の確保
- コスト最適化
- 実績重視の保守的選択
使い分けの合理性
- 技術的合理性
- 美観・安全性が重要な部分 → Co-SUS
- 精密機構が重要な部分 → SUS316L
- 加工精度の要求
- ジョイント部分は磁石の配置や構造で1/100ミリ単位の非常に細かい精度を求められる
- 新素材での精密加工は技術的ハードルが高い
- 実績のあるSUS316Lで確実性を確保
- 段階的技術導入
- 第一世代Co-SUS製品としての慎重なアプローチ
- まずはペンダントトップで新素材の実績構築
- 将来的な全面採用への布石
業界への影響と今後の展望
アクセサリー業界のパラダイムシフト
Co-SUSの登場により、今後高価格帯の磁気ネックレスには以下が求められるようになると予想されます。
- 材料レベルでの安全性:表面処理に頼らない根本的安全性
- 環境対応:ニッケル価格変動の影響を受けない材料設計
- 技術革新:単なるデザイン変更ではない本格的な進化
他メーカーへの波及効果
- 類似の高性能フェライト系ステンレスの開発競争
- 材料表示の透明性向上
- アレルギー配慮の業界標準化
まとめ
Co-SUS(SUS445J2MOD)は単なる新製品ではなく「材料科学による課題解決」の成功例です。
技術的意義
- 完全ニッケルフリー:最も頻度の高いニッケルアレルギーのリスクを大幅に軽減
- 高耐食性:SUS316Lを上回る環境適応性
- 加工性:複雑なデザインへの対応力
社会的意義
- 予防医学:アレルギー発症の根本的予防
- 技術革新:業界の技術水準向上
- 選択肢拡大:消費者の選択の幅を広げる
「一度金属アレルギーになってしまうとほとんどの人は一生治らない」という現実を踏まえれば、Co-SUSのような予防的技術革新の価値は計り知れません。
コラントッテが長い年月をかけて実現したこの材料革新は磁気ネックレス業界にとって新たなベンチマークとなり、今後の業界発展に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。