ここ数年、スポーツ時のパフォーマンス向上や肩こりの改善の為にスポーツネックレス・磁気ネックレスを着用している人が非常に多くなりました。
これら「健康ネックレス」を扱うメーカーやブランドも増加傾向にあり、デザインが優れた商品も数多く販売されています。
ただ、それと同時にデザインと値段のみを追求しネックレスの素材にはあまり気を配らないメーカー・ブランドが増えてきているように思います(特に海外メーカー)。
デザイン性や、○○が向上する○○が改善する等、効果や作用ばかりを強調してネックレスのループ部分やトップ部分の素材に何を採用しているのかすら記載していないメーカーも多々見受けられます・・・。
先日もまずまず有名な国内メーカーの商品説明に素材の記載がなかったので電話で尋ねるとすぐに答えられないという事もありました(結局返事をもらうまでに2時間かかりました)。これは非常に情けない事だと思います。
このような素材不明の商品を着用する事によって引き起こされる可能性があるのが『金属アレルギー』です。
特に気をつけてほしいのが自分の為ではなく、子供にスポーツネックレス等を買ってあげる場合。
親に金属アレルギーに対しての知識がなく、デザインや値段だけでスポーツネックレスを選び、そのネックレスを着ける事で子供が金属アレルギーになってしまうというケースは十分考えられます。
金属アレルギーに一度なってしまうとほとんどの人が一生治る事はありません。自分ならともかく子供に一生の重荷を背負わせてしまえば悔やんでも悔やみきれないでしょう・・・。
この記事では金属アレルギーについての最低限の知識や健康ネックレスを購入する際に注目すべき素材について書きますので、健康ネックレス購入時の参考にしていただければ幸いです。
日本の人口の10人に1人が金属アレルギー?
一般社団法人金属アレルギー協会の資料によれば、現在国内の金属アレルギー推定人数は1,300万人(隠れ金属アレルギーが全体の70%)。およそ10人に1人が金属アレルギーという計算になりますね。
現代社会は歯科の補綴物(クラウンやインレー等の詰め物)やアクセサリ(ピアス、イヤリング、ネックレス等)、化粧品(ヘアカラー剤やファンデーション等)などによって“金属に触れる機会が多い”ので金属アレルギーを発症しやすい環境になっているとの事。
しかしながら、商品を提供するメーカーやブランド、そしてそれらの商品を購入して使用する消費者の両方が金属アレルギーに対する正しい知識を持ち合わせていないのが現状です。
それゆえに今後も金属アレルギー罹患者は増加していくと予想されています。
金属アレルギーのメカニズム
金属アレルギーの症状は金属と接触した部分に紅斑(皮膚表面に発赤を伴った状態)や皮膚の盛り上がり、水疱等が現われ、同時に激しいかゆみや痛みを伴う場合もあります。
基本的にアレルギーはタンパク質に対して起こるものなので、金属そのものが直接アレルギーを起こすわけではないのですが、汗や体液等によって金属から金属イオンが溶出(成分が水などに溶けてにじみ出ること)し、人体が本来持つタンパク質と結合することによってアレルゲンとなるタンパク質に変質するのです。
夏場や運動時等、汗をかきやすい時に金属アレルギーを発症しやすいのには上記のような理由からです。
イオン化傾向と不動態
金属とイオン化傾向
“汗や体液等によって金属から金属イオンが溶出”と書きましたが、金属には溶出しやすい(溶けやすい)ものと溶出しにくいものがあり、それは「イオン化傾向」(金属の水溶液中での「陽イオン」のなりやすさ)を調べる事によって分かります。
図の見方ですが、例えば鉄は金よりも左側に位置しているので、陽イオンになりやすい(汗や体液等によって溶け出しやすい)金属という事が分かると思います。
金属の中でも「ニッケル」「コバルト」「クロム」は金属アレルギー3大原因金属と言われています。上の図にはコバルトとクロムが記載されていませんが、ニッケルや鉄と同じくらいです。
ちなみに広島大学病院歯科で平成18年から平成23年までの間、パッチテストにより金属アレルギー検査を行った結果、ニッケルの陽性率は18.9%、コバルトは10.5%、クロム3価は13.2%でした。
金属と不動態皮膜
イオン化傾向の図を見ると、アクセサリによく使われているアルミニウムの位置が気になった人が多いかもしれません。
商品の説明には“金属アレルギーになりにくいアルミを使用”などと書かれているけれど、アルミは溶けやすい金属じゃないかと思う人がほとんどではないかと。
実は金属の中には“金属表面の腐食作用に抵抗する酸化被膜である「不動態皮膜」”を生成しやすものがいくつかあります。
一般的に不動態になりやすいのはアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等やその合金と言われており、これらの金属は弁金属(バルブメタル)と呼ばれています。
不動態になった金属は錆びにくくなったり金属が溶け出しにくくなり、金属アレルギーが起こりにくくなるのです。
不動態皮膜の強さ自体は金属によって違い、さらに不動態皮膜を破壊しやすい成分等もまちまちですが、身に着けるアクセサリとして最も適している金属のひとつと言われているチタンの不動態皮膜はかなり強固で、塩化物に強い為海水に晒されてもびくともしないようです。
金属アレルギーが起こりにくい金属を選ぶ時にはイオン化傾向だけではなく、不動態にも目を向ける必要があります。
健康ネックレスによく使われている金属
健康ネックレスによく使われている金属としては「純チタン」「アルミ」「ステンレス」等が多いですね。
チタンやアルミに関しては上の不動態の項で説明したように金属の表面に酸化被膜が生成され金属イオンが溶出しにくくアレルギーが起こりにくいとされています。
特にチタンは生体親和性も高いので歯科のインプラント(人工歯根)等にも使われています。
ただし、値段はアルミやステンレスよりもかなり高く、日本最大級のガジェット&テクノロジーサイトGIZMODO JAPAN(ギズモード・ジャパン)の記事では“kg単価でステンレスの10倍以上”と書かれていました。
──チタンが高価なのは、希少価値が高いわけではなく、精製に手間がかかるからなんですね。
そうなんです。チタンは難産なんですね。
──ステンレスに比べてどのくらいの価格になるんですか?
kg単価でステンレスの10倍以上になります。
少し注意が必要なのは「ステンレス」です。
ステンレス(stainless steel:ステンレス鋼)とは鉄を主成分(50%以上)とし、クロムやニッケルを含有させた錆びにくい合金の事で、値段が安いのでアクセサリにもよく使われています。
このステンレスもアルミやチタンと同じく不動態皮膜を生成しやすいので錆びや金属イオンの溶出が少ないとされています。
ステンレスにも様々な種類がありますが、中でもオーステナイト系ステンレス(ステンレスの中でも耐食性が高い種類)の代表的な鋼種であるSUS316L(主成分:18%Cr-12%Ni-2.5%Mo-低C)は海水をはじめ様々な媒質に対して良好な耐食性を示します。“サージカルステンレス”と呼ばれる事も。
ある程度名前が知られた健康ネックレスメーカーで金属にステンレスを採用している商品はこのSUS316Lを使っている可能性が高いです。金属アレルギーに対するアピールの意味でも【ステンレス(SUS316L)】や【ステンレス316L】と記載しているメーカーが多いですね。
ただし、SUS316Lにはニッケルやクロムが含まれているので、すでにニッケルやクロムにアレルギーを持っている人は使わないほうがよいでしょう。金属イオンが溶出しにくいとはいえリスクがあるのは間違いないからです。
要注意なのが安物の健康ネックレスにたまに使われている真鍮(ブラス)。銅と亜鉛の合金の事です。
真鍮に金メッキ等を施した見た目だけはきれいなネックレスを見ますが、短期間で剥がれや変色が起こるケースが多く、金属アレルギーにつながる危険性があります。
一流の健康ネックレスメーカーではほとんど使われていませんが、中国製や国内の個人製作のもの、無名メーカーの商品に使われている事があるので、ネックレスに使用されている素材は必ず確認するようにしましょう。
僕の一番のおすすめはチタン。
チタンなら絶対金属アレルギーが出ないという事はありませんが、やはり他の金属より安心感は高いですね(最近はチタンの陽性率も上がってきているようですが)。
ネックレスのトップ部分に純チタンを採用しているメーカーで有名なのはファイテン社。羽生結弦選手が愛用している「チョッパーモデル」や「ミラーボール」「チョーカースクエア」等の金属部分には純チタンが使われています。
チタンは金属アレルギーを考慮しなくても、強度の高さや軽さ等のメリットがある素晴らしい金属です。
ただし値段が高い、加工が難しい、表面に傷がつきやすい等のデメリットもあります。
まとめ
以上がスポーツネックレスや磁気ネックレスを購入する際に最優先でチェックしてもらいたい「金属アレルギー」のお話です。
冒頭でも述べたように一度金属アレルギーになってしまうとほとんどの人は一生治らないと言われています。
その事を十分頭に入れて、デザインや値段だけでなく、ネックレスにどのような金属が使われているのかをしっかり調べて購入するようにしてください。
スポーツ時のパフォーマンス向上や肩こりの改善というポジティブな効果を求めて健康ネックレスを購入したのに、金属アレルギーになってしまえば本末転倒もいいところです。
現在金属アレルギーは国民的課題のひとつになっているので、消費者が購入時に最低限の情報を知る事ができるようにメーカーやブランドも自社商品の素材をしっかり開示するようにしていただきたいものです。